看護師

看護師と患者さんの世代を超えた淡い恋物語

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患者と看護師

 

私には忘れられない患者さんがいます。

今も私の携帯にはその方の名前と、携帯番号が残っています。

 

私は、実習先であった総合病院に就職しました。

あの当時、かっこいい!と憧れていた看護師さんと、肩を並べて働けることになったのです。

言葉にしにくいのですが、うれしいだけでなく、なんとも言えない優越感に浸っていた新人時代。

少し調子に乗っていた新人時代。

 

私とかっちゃんの出会い

その日、「あなたもそろそろ担当患者さんをつけようかね?」

師長に言われて、ドキドキしながら、患者さんを受け入れる準備をしました。

病棟に来られた患者さん。

白髪混じりの髭面、四角い頭に、腕毛ぎっしり、70代後半のお歳の割に背の高い、脚の長い男性でした。

 

いかつい?というか、不潔ぽいといいましょうか…

そんな印象をうけました。隣には少し腰の曲がったニコニコした女性がいました。

初めての担当患者さん。

その患者さんのことを、私の中だけで、「かっちゃん」と呼ぶことにしました。

 

かっちゃんとの毎日

かっちゃんは悪化した肝硬変でした。

そして、下痢が続いていました。

「はあ、また〇〇さんじゃ。たぶん、うんちゃんじゃろー。」

ナースコールが鳴るたび、ほぼため息のような声が、スタッフの中で聞こえ始めました。

 

かっちゃんは本当に頻回な下痢がでていました。

感染症もあり、ただでさえ忙しい業務のなか、感染者の対策として、エプロン、マスク、消毒など、とにかく時間がとられ、スタッフの中でやれやれという雰囲気が漂っていました。

無駄に元気な私は、かっちゃんのナースコールがなると、「はい、わたしいきまーす!」すぐに立ち上がりました。

機関銃なお母さん

「ごめんよー。またうんちゃんがでたんよー。

ほいでも、ぎりぎりまでまったんよー。ほいでねー……」

他のスタッフがかっちゃんの部屋に行きたがらないのは、奥様の機関銃のような一方的なおしゃべりがなかなか終わらない、というのもありました。

奥様のことをスタッフは、お母さんと呼んでいました。

ちなみにお母さんは排便のこと、うんちゃんと呼んでいました。

かっちゃんは少しでもお尻に排便がつかないように、気を使ってくれているのか、必死にベッド柵につかまり、側臥位で耐えています。

少し不思議なご夫婦。かっちゃんは無口だけど優しくて、お母さんは真逆にずっとおしゃべりしてくれる。

他の看護師が苦手と思っていても、わたしはこの初めての担当患者さんが大好きになりました。

 

さようならかっちゃん

かっちゃんは、少しずつ回復し、いよいよ退院になりました。

かっちゃんは寝ていたらわからなかった、背の高い姿をみせてくれて、本当に嬉しかったです。

不器用だけど優しくて癒される、大好きなかっちゃん、退院おめでとう。明日からはちょっぴりさみしいよ。

かっちゃんからデートのお誘い!

■かっちゃん再び!

退院したかっちゃんでしたが、外来の日は、毎回病棟に上がってきました。「お父さんがどうしても会いたいゆーけー。

ほいでもねー…。」

機関銃のお母さんはとまりません。

 

私は勤務中でもあるし、お母さんのおしゃべりを遮ると、私を穏やかにじっとみてくれるかっちゃんの手をぎゅっと握り、

「〇〇さん、元気なお顔になっとるよ。

ありがとうね。また会いにきてくださいね。」

とだけ伝えました。かっちゃんは、オゥ!と右手を挙げてくれました。

■まさかのお母さんからデートのお誘い?!

また別の日の外来の帰り、お母さんが、「あのね〜、これ。一回お家に遊びにきてくれんかねー。」と小さな紙を白衣のポケットに入れました。どうしよう。患者さんとのプライベートなお付き合いはタブーでした。その後、こっそり紙を見ると、小さな紙切に震えた文字で「△△さん、遊びにきてください」と書いてありました。それをみた瞬間、かっちゃんの字だ!と分かりました。右手に麻痺があり、なかなか力が入らなかったかっちゃん。すごい!リハビリ頑張ってるんだ。そういえばこの前も右手を挙げて挨拶してくれていたなあ。よし!会いに行こう。私の心は決まりました。
『一回きりの内緒のデート』

■ウキウキサイクリング

お休みを利用して、かっちゃんのお家まで自転車でむかいました。。海沿いの潮の香りをたくさん感じ、お日様の光をたくさん浴び、日々のストレスを洗い流されていきます。待ち合わせの場所につくと、オゥ!相変わらずかっちゃんは右手を挙げてにこりとしました。

■可愛らしいメモ

お母さんも公認のデート。かっちゃんはメモしてきた紙を何度も見返していました。どうやら今日のデートのスケジュールがかいてあるようです。メモをもう一度確認し、ランチのお店に着くと看板に向かって、よし!と指差し確認していました。次に、またメモを見て、私をケーキやさんに連れて行ってくれました。またしても、よし!と指先確認。かっちゃんはケーキをお土産に買ってくれました。その後、二人でお母さんの待つお家へむかいました。機関銃のお母さん。ニコニコしながら、おかえり!と元気よく迎えてくれました。

かっちゃんの再入院

その後、かっちゃんは肝癌になり、癌が肺に転移し、また入院することになりました。

次は呼吸器内科に入院し、私のいる病棟ではありません。

お母さんは、お父さんが会いたがっていると私に教えてくれました。

仕事が終わると、いつもかっちゃんに会いに行きました。

かっちゃんは日に日に瘦せ細り、どんどん小さくなっているように見えました。

穏やかな笑顔が消え始めました。

絵を描く度あなたを想う

私はデッサンで似顔絵を描くのが好きです。

かっちゃんの元気だったときの似顔絵を何枚も描きました。

色鉛筆で綺麗な色をたくさん重ねて。

やっと完成したかっちゃんの似顔絵を持って、かっちゃんの病室にいきました。

かっちゃんはしんどそうに横たわり、右手をヒラヒラさせてくれました。

私は新人だけど、かっちゃんがもうそんなに長くはないことを感じました。

手を握り、絵を描いてきたことをゆっくり話しかけました。

私の願いは届かず、その日、かっちゃんは急変し、亡くなりました。衰弱したおかあさんが、私にこっそり、通夜の日をおしえてくれました。

悲しみのサイクリング

あの日通ったお日様が眩しかった道。

悲しい潮の香りを感じながら自転車で通夜にむかいました。

かっちゃんの亡骸に、そっと寄り添い、かっちゃんが初めての担当患者さんだったこと.

かっちゃんとおかあさんに頼られる度、私の自信をもてたこと。

メモを見ながらデートのエスコートはものすごく可愛かったよ。

 

かっちゃんありがとう。

涙がにじんでかっちゃんがぼやけました。

キラキラした笑顔の似顔絵が、かっちゃんの亡骸の横にそっと置いてありました。

 

看護師の初心をわすれない

私がかっちゃんに感じた気持ちがなんだったのか、正直わかりません。

ただ、大好きだったし、今も鮮明に思い出す大切な人です。

患者さんに信頼されること、それに一生懸命応えたいという純粋な気持ち。

初めての患者さん。今も電話をすると、オゥ!とでてくれそうだな。

携帯の番号を見る度、かっちゃんは初心をわすれるなよ!とメッセージをくれます。

 

看護師の私の心に今も元気に生きています。

 

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